知識ゼロから始める業務用空調の世界|未経験者が最初に覚えるべき専門用語15選


「よし、空調設備の世界に挑戦してみよう!」


そう決意したあなたが、最初にぶつかるであろう、大きな壁。

それは、もしかしたら「専門用語」かもしれません。


現場や打ち合わせで、先輩や職人さんたちが当たり前のように話している言葉が、まるで外国語のように聞こえる…。

「今、なんて言った?」「話についていけない、どうしよう…」

そんな不安を感じてしまうのは、未経験者なら当然のことです。


でも、安心してください。

どんなベテランの技術者も、最初はみんな、あなたと同じ場所からスタートしました。

一つひとつの言葉の意味を知るたびに、世界がクリアに見えてくる。仕事がどんどん面白くなっていく。専門用語は、そんな成長を実感できる、最初のステップなのです。


この記事では、未経験のあなたがまず覚えておきたい、現場で本当に良く使われる基本的な専門用語を15個、厳選しました。

「暗記しなきゃ!」と意気込む必要はありません。

「へぇ、こんな言葉があるんだ」「なんとなく、こういう意味なんだな」

そんな軽い気持ちで読み進めてみてください。


この記事を読み終える頃には、あなたの専門用語に対する苦手意識は消え、プロへの第一歩を踏み出す自信が湧いてくるはずです。


---


ここからは、いよいよ用語の解説に入ります。

まずは、仕事の基本となる「超」重要ワードから見ていきましょう!


基本の「き」編(これだけは押さえたい!超重要ワード)


1.施工管理(せこうかんり)

まず、私たち自身の仕事を表す最も重要な言葉です。「現場監督」とほぼ同じ意味で使われますが、その内容はもっと深いです。具体的には、工事の「品質(Quality)」「原価(Cost)」「工程(Delivery)」「安全(Safety)」の4つを管理する仕事です。良いものを、予算内で、納期通りに、そして誰もケガすることなく完成させる。そのための全てをマネジメントするのが「施工管理」です。


2.ダクト

オフィスや商業施設の天井裏を覗くと、銀色の大きな角材や丸い管が通っているのを見たことがありませんか?あれが「ダクト」です。空調機で作られた快適な空気を、建物の隅々まで送り届けたり、汚れた空気を外に排出したりするための「空気の通り道」です。まさに、建物の血管や気管のような、とても大切な役割を担っています。


3.冷媒(れいばい)

空調設備がなぜ涼しくなったり暖かくなったりするのか、その心臓部で働いているのが「冷媒」です。これは特殊なガスで、室内機と室外機の間をぐるぐると循環しながら、「熱」を運ぶ役割をしています。夏は部屋の中の熱を奪って外に運び出し、冬はその逆で、外の空気から熱を奪って部屋の中に運んできます。この冷媒がなければ、空調はただの送風機になってしまいます。


4.室外機(しつがいき)

建物の屋上やベランダ、地面などに置かれている、大きな箱型の機械です。ファンが回っているのが見える、アレです。先ほど説明した「冷媒」を使って、室内から集めてきた熱を外の空気に放出したり(冷房時)、外の空気から熱を吸収したり(暖房時)する、パワフルな働きものです。まさに空調システムの「心臓部」と言えるでしょう。


5.室内機(しつないき)

実際に私たちのいる部屋の天井や壁に取り付けられていて、涼しい風や暖かい風が出てくる機械のことです。天井に埋め込まれている四角い「天井カセット型(天カセ)」や、天井から吊り下げられている「天井吊型(天吊り)」など、部屋の用途やデザインに合わせて様々な種類があります。


---


次は、現場でよく名前を聞く、具体的な機器や設備に関する言葉です。


現場で飛び交う「機器・設備」編


6.パッケージエアコン(PAC)

比較的、小規模から中規模の店舗やオフィスなどでよく使われる空調システムのことです。1台の室外機に対して、1台から数台の室内機がセット(パッケージ)になっています。街のクリニックやコンビニ、事務所などで見かける空調の多くが、このタイプです。


7.ビル用マルチエアコン(ビルマル)

その名の通り、大規模なオフィスビルなどで使われる高機能な空調システムです。たった1台のパワフルな室外機で、何十台もの室内機を接続し、しかもそれぞれの室内機を「冷房」「暖房」「送風」と、個別に運転できるのが特徴です。例えば、同じビル内でも、日当たりの良い窓際の部屋は冷房、北側の寒い部屋は暖房、といったきめ細やかな設定が可能です。


8.全熱交換器(ぜんねつこうかんき)

最近、特に重要度が増している省エネのための換気設備です。普通に窓を開けて換気をすると、夏はせっかく冷やした空気が、冬は暖めた空気が外に逃げてしまい、もったいないですよね。全熱交換器は、換気で汚れた室内空気を外に排出するとき、その空気が持っている「熱」と「湿気」を回収し、新しく取り込む外の空気に移してあげる賢い機械です。これにより、冷暖房のエネルギーロスを最小限に抑えながら、換気ができます。現場では「ロスナイ」という商品名で呼ばれることも多いです。


9.送風機(ファン)/排風機(ファン)

広い空間や、たくさんの部屋に空気を送る場合、ダクトの中を空気が進む力が弱まってしまいます。そんな時、途中で空気を力強く押し出してあげるのが「送風機(ファン)」です。逆に、汚れた空気や熱気を建物の外に強制的に排出するのが「排風機(ファン)」です。厨房やトイレの換気などで活躍します。


10.スリーブ

壁や床をコンクリートで造る際に、あらかじめ配管やダクトが通るための「穴」を確保しておく必要があります。そのために埋め込んでおく、筒状の部材が「スリーブ」です。これを計画段階で入れ忘れてしまうと、後から固いコンクリートの壁や床に、ドリルで大きな穴を開けなければならなくなります。それはもう、大変な作業で、関係者みんなが悲しい気持ちになります…。そうならないためにも、事前の図面チェックでスリーブの位置を確認するのは、とても重要な仕事です。


---


最後に、工事の現場で実際に行われる作業に関する言葉です。これを知っていると、職人さんとの会話がぐっとスムーズになります。


知ってると「おっ」と思われる「工事・作業」編


11.墨出し(すみだし)

設計図に描かれている情報を、実際の現場の床や壁、天井に書き写していく作業のことです。機器を設置する正確な位置、壁を立てるラインなどを、墨つぼという道具を使って、基準となる線を引いていきます。「すべての工事は墨出しから始まる」と言われるほど、ミリ単位の精度が求められる、非常に重要な最初の工程です。


12.ラッキング

配管やダクトには、結露を防いだり、熱が逃げないようにしたりするために、グラスウールなどの「断熱材」を巻き付けます。しかし、断熱材は柔らかくて傷つきやすい。そこで、その断熱材を保護するために、さらにその上からステンレスやカラー鋼板といった薄い金属板をきれいに巻いて仕上げます。この作業を「ラッキング」と言います。見た目を美しくするだけでなく、設備の耐久性を大きく向上させる、職人の腕が光る仕上げ作業です。


13.試運転(しうんてん)

すべての機器の設置と接続工事が終わった後に行う、最終チェック作業です。実際に空調設備の電源を入れ、正常に動くか、リモコンの指示通りに運転が切り替わるか、設定した温度の風がきちんと出てくるか、変な音や振動はないか、などを一つひとつ確認していきます。この試運転をクリアして、初めてお客様に「工事が完了しました」と胸を張って報告できるのです。


14.竣工図(しゅんこうず)

工事が始まる前に使っていた図面は「設計図」です。しかし、実際の工事では、現場の状況に合わせて、設計図から少し変更を加えることがよくあります。工事がすべて完了した後に、それらの変更点をすべて反映させた、最終的な「あるがままの姿」を記録した図面。それが「竣工図」です。この図面は、将来、その建物をメンテナンスしたり、改修したりするときに、絶対に必要となる、とても大切な財産になります。


15.養生(ようじょう)

工事を行う際、すでに完成している床や壁、設置済みの他の機器などを、傷つけたり汚したりしないように、ビニールシートやベニヤ板、プラスチックのボードなどで保護することです。「養生」の丁寧さを見れば、その会社の仕事に対する姿勢が分かるとも言われるほど。お客様の大切な建物を扱う上で、基本中の基本となる、思いやりの作業です。


---


専門用語と上手に付き合うコツ


さて、15個の用語、お疲れさまでした。

「やっぱり、たくさんあって大変だ…」と感じましたか?

最後に、これらの専門用語と上手に付き合っていくためのコツを少しだけ。


一番大切なのは、「一度に全部覚えようとしないこと」です。

最初は、先輩や職人さんの会話をBGMのように聞き流すだけでも構いません。「あ、この言葉、記事で読んだやつだ」と思い出せれば、それだけで100点満点です。


そして、もし分からなければ、「すみません、今の〇〇ってどういう意味ですか?」と、勇気を出して聞いてみてください。質問することは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、「この子は本気で仕事を覚えようとしているな」と、周りはあなたの意欲を高く評価してくれるはずです。


言葉の意味を覚えたら、ぜひ現場で「実物」と結びつけてみてください。「なるほど、これがラッキング仕上げか」「これがスリーブなんだな」。そうやって、言葉と実物が頭の中で繋がったとき、知識は本当の意味であなたのものになります。


まとめ:言葉が分かれば、仕事はもっと面白くなる!


専門用語は、未経験者にとって、高くそびえる壁のように感じるかもしれません。

ですが、それはプロフェッショナルの世界へ入るための「扉」のようなものです。


一つ言葉を覚えれば、これまで謎だった会話の意味が分かるようになる。

また一つ言葉を覚えれば、図面が少しだけ読めるようになる。

そうやって、言葉というカギで扉を開けていくたびに、あなたの見える世界はどんどん広がり、この仕事の本当の面白さに気づいていくはずです。


この記事が、あなたがその扉を開けるための、最初の小さなカギになれたら、これほど嬉しいことはありません。

さあ、専門用語への苦手意識はもう終わり。

プロフェッショナルの世界への、ワクワクするような冒険を始めましょう!